寒さも厳しい1月の暮れ。仕事から帰宅した私に、「待っていました!」と言わんばかりにおへそを見せながら不敵に微笑む妻。もちろん妻が見せたいのは“へそ”ではない。幼少期から鑑賞している名探偵コナンで培った私の勘が働く。
いずれ来るであろうと予期していたにも関わらず、こんなにも早く来るものなのかと頭の中はパニックに陥りながらも平静を装いつつ絞り出した「おお!まじか!」という返答の是非を自身に問う間も無く、妻は畳み掛けるように見慣れない白い棒に浮かび上がった青い線を見せつけてくる。
どうやらドッキリでは無いようだ。
この記事では、妻の妊娠発覚からこれから迎えるであろう出産と子育てについての夫目線の考えや体験談の序章を書きたいと思う。
世の男性諸君、男だって初めての経験には戸惑うものだ。うまくいかないこともあるし、時には自分が嫌になることもあると思う。
しかしそれもみんな一緒だ。自分の理想の父親になれるよう共に頑張ろう。挫けそうになったとき、この記事をもう一度見直してほしい。もちろん私もそうしたいと思う。
妻を含め世の女性には、至らない野郎の奮闘っぷりを大目に見てほしいと願う。
結婚してから2年半
「1年くらいは新婚生活を満喫して、子供のことはそれから考えれば良いか」なんていう当初の甘い想定は、世界的に流行している新型コロナウイルスのせいで大幅な見直しを余儀なくされ、今に至っている。
旅行や遊びにはほぼ行けていないが、そんな中でもそれなりに充実していたこの静かな日常を揺るがす突然の吉報。コロナ禍を理由に先送りにしていたが、いつ落ち着くかもわからないまま年齢を重ねることを危惧した妻と家族会議を行い、今年から子作りをしようと決めた矢先だった。
“もし”と“現実”の高低差で耳がキーン
「もし私たちに子供ができたら」そんな話をパートナーとした経験がある方もいるのではないだろうか。どちらに似てほしいとか、習い事はあれやこれをさせたいとか。私たちも以前そんな話をしていた。
しかし実際に妻から妊娠を告げられた私は、「やったぜ!ベイビー!良くやってくれた!」とキスをして抱きしめるというアメリカのホームドラマのようなことはできず、まだ見ぬ未来を想像し、さまざまな脅威に不安を募らせてしまい、その事実をすぐに受け入れることができなかった。
少なくとも妻からの報告を受けるまであった“女子高生特有の無敵感”にも似た根拠の無い自信は、驚くほど脆く一瞬で崩れ去ったのだった。
妊娠報告を受けた男の頭の中
初めての妊娠報告というのは、横綱の張り手のような強烈なインパクトがある。”自分の子供ができた”という衝撃は、嬉しいとか不安だとかあらゆる感情より早く届いて頭の中を散らかしていった。
そしてその直後ものすごいスピードで頭の中を整理しようと脳が回転する。今まで好きに使っていたお金、昼までだらだらと寝たり友人と遊ぶ時間、そういったものが全て無くなってしまうのではないかという不安。そういった自己中心的な懸念に対する恥ずかしさ。そして子供ができたことに対する喜び。どんどん増え続ける感情の整理はいったいいつ終わるのだろうか。
しかしこの感情の整理が終わるまで何も言わないというわけにもいかない。報告をしてくれたパートナーを不安にさせることだけは男としてなんとしても避けたかったのだ。
パートナーへの気遣いを忘れずにいたい
大人の男にそれほどの衝撃を与えるのだから、実際に妊娠と出産を体験するパートナーの心情は計り知れない。だからむやみに狼狽えた姿を見せるべきではないし、散らかった感情をぶつけることも賢明な判断とは言えないだろう。
しかし散々な状態の頭の中で、パートナーへの配慮ある返答を見つけることができるだろうか。
私の場合はどうだっただろう。この記事を書きながら当時のことを妻に尋ねてみたところ、私は少し驚いた様子で、喜んだり不安がったりなどの感情は見えなかったようだ。「それで良かったのか?」という疑問に妻は、「嫌がっているようなリアクションで無ければ良い」という。
妊娠に対する期待の度合いは人それぞれなので一概には言えないが、妻の場合は妊娠の報告によって私が“喜んでくれるか”よりも“嫌じゃないか”の方が心配だったのだろう。人それぞれとはいえネガティブな印象をパートナーに与えないことが最重要なのは確かである。
10日間で考えたこと
この10日間というのは、妻が妊娠検査薬で陽性を確認してから産婦人科を受診するまでの期間である。
妊娠報告を受けてからというもの、四六時中そのことばかり考えていた私の頭の中は少しずつ整理され、想像上の未来を憂慮するだけではいけない“子供ができた”という事実を受け入れることができるようになっていた。そしてその頃には妻や赤ちゃんのこと、親への報告はどうするかなども考える余裕が生まれていた。
そういえば、どうして妻はすぐに産婦人科へ行かないのか。恐らく妊娠報告の際に1度されたであろう説明を再度“念のため”という雰囲気を作りつつ聞いてみる。
どうやら陽性反応が出たからといってすぐに受診しても、赤ちゃんの心拍を確認することはできないらしく、一般的には妊娠6週頃から心拍の確認ができるようになるとのこと。
妊娠にはいくつかの“壁”があり、そのうちの1つがこの心拍を確認できるかだという。そしてそれが親への報告をいつするかにも関わってくる。
「もしダメだったときを考えると、まだ伝えるには早い気がする」という妻の言葉にハッとした。少しずつ整理された頭の中に“流産”という新たな心配の種が蒔かれたのだ。
この新たな心配やまだ見ぬ不安も、これから続くであろう出産・子育ての序章であり、現状で手いっぱいな自分に先が思いやられたのであった。
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