妊娠の報告を受けてから10日。今後の自らの自由に対する懸念になんとか折り合いをつけ、心新たに前へ進もうと決心をしたのも束の間、流産の多くが妊娠初期に起こっていることを知り、またしても私の頭の中は不安でいっぱいになったのだった。
今回は、“パートナーの妊娠”というそれまでの世界を大きく揺るがす出来事に翻弄され続ける男の10日目からスタートする。初めての健診、エコー写真、親への報告、“つわり”についてや食生活の変化などで思ったり感じたことを赤裸々につづりたいと思う。
初めての健診〜妊娠6週〜
そもそも初めての健診というのは夫婦揃って行った方がいいのか?それとも今のご時世的に妻が単身で向かう方がいいのか?という疑問を鞄に忍ばせたままいつも通り仕事に行き、いつになく集中できない状態で仕事をこなしていた私に、単身で健診に向かっていた妻からの連絡が飛び込んできた。
「赤ちゃんがお腹にいた」と「ちゃんと心臓が動いていた」という報告に、恥ずかしながら初めて「よかった」と純粋に思えた。これは私なりに10日間パートナーの妊娠に対して向き合ってきた結果なのだろうか。大袈裟に聞こえるかもしれないが、“ただ、生きている”ということが嬉しくてたまらなかった。帰宅後すぐに妻が見せてくれたエコー写真には、それはそれは小さなものが写っていた。
「なんだこれは」
遠い異国の郷土料理を初めて見せられたときのような、実際は戸惑いながらも周囲の人たちに気を遣って言葉を選んでしまうような感覚がそこにはあった。まだ妊娠6週なので当たり前なのだが、初めて見るエコー写真は正直言って何が何だかわからなかった。「これが赤ちゃんで、これが○○で〜」と興奮気味に説明する妻を視界に捉えつつ、モノクロの写真をただじっと見つめていた。この時の私を見て妻は「嬉しそうにしていて安心した」と後に語っている。次の写真も楽しみだ。
親への妊娠報告
妻と事前に「赤ちゃんの心拍が確認できたら、一緒に親へ報告しよう」と決めていたが、私の帰宅が少し遅れたこともあり、妻の親には妻から、私の親には2人から伝えることになった。妻の親には後日改めて2人で報告しようなんて後先考えずに言ってしまった私はすぐに後悔することになった。杞憂だと思うかもしれないが、「娘さんと枕を交わしましたよ!」と義両親に面と向かって言っているようなものではないのかと思ってしまったからだ。私自身、考え過ぎなのは重々承知しているが、男の多くは奔放さの陰に繊細な一面を持つ少年のままなのだ。
2人のことなので、報告の場には私も妻と一緒にいた方が良いのではないか?それに何か一言でもコメントがあった方が良いのではないか?とも考えてはいる。しかし、こと妊娠に関しては妻の親に改まって私から伝えられることなど無いのだ。
次に義両親と直接会うときは、妻の横でいつも以上に慎ましく過ごしたいものだ。
つわり〜私の妻の場合〜
妊娠すると、どのような変化があるのか。妊娠に関しての知識があまりない私でもさすがに「お腹が大きくなる」と「つわりがある」ということくらいは知っている。そしてそのつわりというものは個人差こそあるものの、ツラいようだ。
妻の場合は食べつわりと眠気つわりがメインのようだが、他にも吐きつわりや、においつわりなどもあり実に多種多様だ。1度だけ妻が外食中に吐き気を催したことがあり、その場はなんとか落ち着いたものの、「もし自分が外出先で急な吐き気に見舞われたら」と想像してとても心細くなった。
つわりについて調べ始めたのもこの頃で、何か自分にできることはないかと探した結果、“下手な口出しはせず、好きにさせてあげること”に尽きると悟った。妻が「カルピスしか飲みたくない」と言えばカルピスを箱買いし、「小腹が空いた」と言えばUber Eatsの如く走り、「疲れた」と言えば休憩できる場所を一刻も早く提供する。あとは家事を普段より気持ち多めに手伝う。代わりに妊娠することができない私には妻を全力でサポートする以外できることは無いのだ。恐らく世の全ての男たちもそう。
食生活の変化
妊娠した妻に対して心底同情したことはいくつかあるが、もっとも私に影響があったのは“食事に関して”だ。私も妻もお寿司が好きで、貯まった楽天ポイントを使って月1でお寿司を食べに行っていたのだが、それができなくなった。刺身(生魚)がNGなのだ。食中毒がとにかくダメで、そのリスクを回避するために火を通すことが大前提となる。今どきの回転寿司屋は生魚以外のお寿司やサイドメニューも豊富なので、楽しめなくはない気もするがそういう問題ではないようだ。同じ理由で生卵や生肉(火の通りが甘いものもNG)、加熱処理がされていないナチュラルチーズもダメ。他にもカフェインを含む飲み物や、ヨウ素やヒ素やビタミンAを多く含むもの等々、調べ始めたら発狂しそうになるくらい出てくる禁止または制限の数々。食べたい気持ちを我慢している妻を不憫に思う一方で、ふるさと納税で大量に届いたマグロのタタキをどうするんだと思う私がいた。
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